変電所の母線方式

この記事は第一種電気主任技術者の試験勉強のまとめです。特に変電所に関する内容を不定期でとりあげていきます。
ただ、勉強のための記事作成はタイパが悪いので、最初で最後かもしれません。

発電所で発電された電気は変電所へ送電されて、変電所で電圧を変えて需要家(工場や家庭など)へ送り届けられる。


母線(Bus)は、変電所内で電気を分配する大きな導線である。送電線からやってきた電気は母線を通って変圧器の一次側へ流れていく。

いわば、母線は「電気の幹線道路」といえる。

n箇所の地域を結ぶ道路を作るとき、各地域間の直通道路を作るならば、$${}_n C_2=\frac{n(n-1)}{2}[本]$$ の道路が必要になる。一方、すべての地域に枝分かれする幹線道路があれば、1本の幹線道路とn本の分岐道路で十分である。 つまり、母線を介して送電線や機器を接続すると、低コストでシンプルな構成になる。

また、幹線道路は交通事故や工事で通行止めになるが、二車線あれば、片側だけ交通規制を行って他方は通行可能である。 母線でも事故や点検作業の際に停電しなければならないが、二重母線にすると片母線で電気の供給を継続できる。


変電所の母線方式

変電所の母線方式はいくつかあり、経済性と供給信頼性、事故の影響度をかんがみて決められる。 ここでは、主な3つの母線方式を紹介する[1]

単母線方式

単母線方式では、1本の母線に複数の送電線や変圧器が接続される。

鉄塔から渡ってきた送電線から変圧器までの流れは、  断路器(LS)→遮断器(CB)→LS→母線→LS→CB→変圧器 となる。


二重母線1ブスタイ

二重母線は2本の母線で構成される。2本の母線を甲母線と乙母線とよぶ。

母線間は2つのLSで接続されており、LSとLSの間の点から延びる電路にCBが設置されている。そのCBには(母線に対して電源側の)送電線や(負荷側の)変圧器が接続されている。

そして、図の右側にある母線間を接続するLS・CB・LSは「ブスタイ」とよぶ。 片母線の事故時にブスタイCBを開放して、甲母線と乙母線を切離す。


ここで、2本の送電線と2バンクの変圧器が接続されている変電所を考える。 1号送電線は甲母線、2号送電線は乙母線へ。No.1B変圧器は甲母線、No.2B変圧器は乙母線へ接続する。

1号送電線~甲母線~No.1B変圧器という構成は単母線方式と同様だ。したがって、ブスタイCBが開放されると、2つの単母線系統と見なせる。 また、甲母線には1号や1バンク、乙母線には2号や2バンクを接続するのが標準的である。これを「1甲2乙」と呼ぶ[2]


二重母線4ブスタイ

母線事故時も1/4の停電に留めることができる。


機器コスト土地面積停電範囲保守性
単母線全体
二重母線1ブスタイ1/2
二重母線4ブスタイ1/4

二重母線の切替

甲母線から乙母線への母線切替について説明する。

  1. 甲母線と乙母線の同期検定をおこない、母線電圧および位相が揃っていることを確認する。
  2. 甲母線側および乙母線側のブスタイのLSを投入する。
  3. ブスタイCBを投入する。
  4. 送電線と変圧器の母線側LSを切替える。切替先である乙母線側LSを投入→元の甲母線側LSを開放の順で行う。
  5. ブスタイCBを開放する。
  6. 甲母線側および乙母線側のブスタイのLSを開放する。

特に、最初の同期検定が重要である。 同期がとれていなければ、ブスタイCB投入時に、母線間を大きなループ電流が流れる。


母線の保護

変電所の主となる電路である母線での事故は、広範囲の停電につながるおそれがある。 そのため、母線保護装置(ブスプロ)は非常に重要度が高い[3-4]

ブスプロには差動継電器が使われている。 差動継電器は、母線よりも送電線側にあるCTと変圧器側にあるCTが接続されており、母線への流入電流と母線からの流出電流の合計を判定することで、内部事故を検出する。 たとえば、母線で地絡事故が起きると、流入電流=負荷電流+故障電流になる。故障電流は内部の事故点を通ってアースへ流れていく。よって、流出電流=負荷電流になる。 つまり、流入電流と流出電流の大きさに差があれば、内部事故が起きていると判断できる。(キルヒホッフの法則)

ブスプロで主に使われる差動継電器は2種類ある。

高インピーダンス差動電流方式

高インピーダンス差動電流方式では、高インピーダンスの抵抗器とCTを並列接続したペアを全て並列接続して、そのノード間電圧を継電器で監視する。 すべてのCTは等しいCT比であり、物理的な並列接続によって、接続点を流れる電流=全ての電流の和となる。

平常時や外部事故では、全ての電流の和は相殺されてゼロになるので、抵抗器には電流が流れない。 内部事故が起きると、電流が抵抗に流れて、差動継電器が電圧の発生を検知してトリップ信号を出す。

また、CTが磁気飽和しても誤動作しない。
磁気飽和を起こすような大電流が流れると、高インピーダンス抵抗器と継電器の内部バリスタ(MOV)へ分流するので、しきい値より高い電圧が発生することはない。

シンプルな構成であり、単母線で採用される。


低インピーダンス差動電流方式

低インピーダンス差動電流方式は、内部インピーダンスの低い継電器にCTを接続して、各CTの電流をデジタル処理する。つまり、CT比の異なるCTでも接続できる。

低インピーダンス差動電流方式の特徴を2つ挙げる。

  1. 高感度かつ高速
  2. 差電流と抑制電流のスロープ特性でトリップ

内部インピーダンスが低いので、外部事故であっても磁気飽和によるCT誤差の影響を受けやすい。つまり、しきい値電圧を超えて誤動作する恐れがある。
外部事故でブスプロが起動してはいけないので、差電流(Operating Current)と抑制電流(Restraint Current)を組み合わせたスロープ特性でトリップを判断する。

差電流はすべてのCTの電流のベクトル和、抑制電流はスカラー和である。
差電流は外部事故時にゼロとなり、内部事故では大きな値をとる。
また、抑制電流が大きいほど、差電流のしきい値は大きくなるので、CTが磁気飽和するような大電流に対しても、正しく内部事故を判断できる。


二重母線の保護区間の注意点

二重母線は甲母線と乙母線の切替えで、継電器の保護範囲が変化する。甲母線で事故が起きたのに、乙母線につながるCBをトリップしても意味がない。つまり、継電器へ入力するCTの動的な選択が必要となる。
したがって、CT比の差異の影響が少ない低インピーダンス差動電流方式が、二重母線の保護には多く使われている。



一般的な系統保護では、盲点を無くすために、保護区間の重複をつくる。具体的には、保護対象の端にあるCBの外側にCTを設置する。

二重母線では、甲母線と乙母線の保護区間がブスタイ周辺で重複している。

この設計は間違っていないのだが、ブスタイCBとCTb2の間で事故が発生すると、どのCBがトリップするだろうか?

ブスタイCBと乙母線に接続するCBをトリップすれば事故は解消するが、両母線につながる全てのCBにトリップ信号を出してしまう。

そこで、甲母線と乙母線の保護区間が重複しないように、ブスタイ周辺に第3の保護区間を設定する。


参考資料

[1] 令和6年度第一種電気主任技術者二次試験 電力・管理科目  https://www.shiken.or.jp/chief/first/qa/

[2] 九州電力 系統運用ルール

[3] K.Behrendt, D.Costello and S.E. Zocholl: Considerations for using high-impedance or low-impedance relays for bus differential protection, 63rd Annual Conference for Protective Relay Engineers, pp. 1-15, IEEE(2010)

[4] SEL: SEL-487B-2 Bus Differential and Breaker Failure Relay https://selinc.com/products/487B/

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